幸生窯

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幸生窯のこと

  • 滋賀県南部に広がる、自然豊かな高原地帯。深い針葉樹の森に抱かれるように、幸生窯の工房は立っています。ふと見上げれば信楽で最も標高の高い「笹ヶ岳」が広い空を背に悠然と構え、敷地内ではざまざまな木々が四季の移ろいを感じさせてくれます。国道から少し入り込んだこの場所は、もとは道もつながっていない空地でした。木を伐り、土を掘り、少しずつ時を重ねながら豊かな制作の場となって、40余年家族の暮らしを育んできました。

  • ここで日々作陶に取り組むのは、親子、夫婦、甥っ子、そして仲良しのご近所さん。工程ごとに分けられた作業場からは、AMラジオやシティ・ポップなど、各々のお気に入りのサウンドが聞こえてきます。「口も動かした方が仕事がはかどる」と盛り上がる女性陣のおしゃべりを横目に、黙々と作業に取り組む職人気質の先代。別室には陶芸修行中の甥っ子。気心の知れた者同士、気兼ねなく、自然体で打ち込める環境で生み出される小さな動物たちは、皆のびのびと気取らない表情に仕上がっていきます。

  • 幸生窯で生まれる作品の中で、特に多いのが猫のモチーフ。ここには三匹の猫が住んでいて、あちらこちらでその気配が感じられます。工房に住む兄妹猫のキンゾウとチャロ、そして日の当たるリビングでくつろぐのが大好きな家猫ミーア。それぞれ偶然の出会いからここにやってきましたが、今では猫たちがいない毎日は考えられないほどその愛らしさにすっかり心を奪われて、作品づくりにも影響を受けるようになりました。

    家族の一員として活躍する猫たちの仕事は幅広く、工房周辺のパトロールや、作品のモデル、お客様のおもてなし、寒い季節には懐に納まり、湯たんぽのように温めてくれるのも大事な役目のひとつです。小さな陶の動物たちは、いわばこの猫たちの後輩。各々の居場所を見つけ、どこかの家族の一員として、ふとした瞬間のやすらぎや笑顔の種になれるようにと、心を込めて送り出します。

  • 幸生窯は数年前、父から子へと継承されました。現在の代表である前川幸市は、先代から受け継いだ幸生窯のものづくりを守りながら、各地で個展を開き、大きな陶の作品や動物たちの原画をもとにした絵本を制作するなど、作家としても活動しています。

    23歳で幸生窯に入り、修行中には師に勧められて旅に出たこともありました。その時に出会ったインドの人々の生活は、一見贅沢な様子ではありませんでしたが、晴れやかな笑顔や色鮮やかな民族衣装が印象的で、まるで心の中の豊かさが、その暮らしぶりや生活の道具に宿っているように感じられました。この経験をきっかけに、飾らない、素朴の中にある豊かさを表現していきたいと考えるようになり、その思いは今の幸生窯の根幹となっています。

  • 陶芸と、信楽の自然と、家族の暮らし。ありふれた景色ではありますが、多くの人に生かされているこの日常こそ、私たちが守り続けたいものであり、心の原風景でもあります。ここで感じる素朴の中にある豊かさが小さな動物たちを通して、風に吹かれた綿毛のようにどこかに届き芽吹くことを楽しみに、これからも幸生窯の日々は続いていきます。

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